悪女ロベリアの矜持 ~欲にまみれた王族の皆様。〝ただの側室〟に翻弄される気分はいかがですか?~
 「お、落ち着いてくださいイレーヌさ――」
 「うるさい!」

 なだめようと私の肩に触れたリュシーの手を振り払う。

 「きゃあ!」
 「大変、血が出てますわ!」

 爪がかすめたらしい。
 うっすらと血の滲んだ頬を押さえて悲鳴を上げるリュシーを見て、演技過剰にヴェロニカが慌てだす。

 「ひどいですわイレーヌ様!」
 「誰に口をきいていると思っているの!」

 分を弁えない態度に腹が立って、ぴしゃりと言い返す。
 貧乏子爵家の娘ごときが、殿下のお手付きになったくらいで公爵家のわたくしと対等にでもなったつもりか。

 「誰って。殿下に捨てられた哀れな年増にですけど?」

 喜悦に歪んだ醜い顔。言われた瞬間、ほとんど反射的に宝石のついた指輪をクルリと回し、思いきりヴェロニカの頬を打つ。

 「ぎゃあっ!」
 「ふ、悲鳴まで無様ね」

 宝石の台座がヴェロニカの頬の肉を抉り、リュシーの比ではないくらい大量の血が、ボタボタと床に滴り落ちる。

 「いだいぃ! こんな、ひどい、わたくしの顔が……!」
 「汚れちゃったじゃない。こんな指輪、もういらないわ」

 ぎゃあぎゃあと喚くヴェロニカを無視して、肉片と血にまみれた指輪を外してテーブルに放る。

 「ひっ」

 目の前に転がった赤い指輪に、女官の一人が怯えたように仰け反った。

 「よろしかったら差し上げるわ。あなたのおうちじゃ一生かかっても買えないような一級品よ」

 にこやかに言えば、彼女は青褪めた顔のまま、そろりと指輪に手を伸ばした。
 なんてあさましい女なのだろう。
 ヴェロニカごときにつこうなんて頭の悪い判断をするだけのことはある。

< 95 / 206 >

この作品をシェア

pagetop