ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。

 少しの間、沈黙が落ちた。

『二人でさ、なんでもないことでいいから、もっといっぱい喋ったほうがいいかもよ』

 ふと、さっきの正人くんの言葉が思い出される。

「……っていう感じで、話せることも特にないんだけど。過去の話とかって……祥ちゃんは聞きたいタイプ?」

 私が尋ねると、祥ちゃんは「うーん……」と眉間を寄せて悩んだ。

「わかんない。知りたくないような気もするし、知ったら少しスッキリする部分もあるし……」

「ごめん……知りたくなかった?」

 焦る私に、彼は首を横に振る。

「いや、お互い隠し事とかなく、気にせず話せるほうがいいとはわかってるんだけど……やっぱり知ると……妬くし」

「えっ」

 予想外の言葉に、素っ頓狂な声を出してしまった。

「祥ちゃんって、やきもちとか焼くの?」

「え? ……うん、普通に」

「今まで妬いたことあった?」

「あるよ」

「えっ、いつ?」

 質問攻めにする私に、「めっちゃ聞くな」と苦笑いする。
 そして、視線を逸らして口を開いた。

「……その、元彼にも妬くし。美絵のバイト先の柳くんだって、なんかお洒落でカッコいいし。……今日も、正人より先に美絵の髪見たかったし」

 ヤケになったようにぶっちゃけられる言葉の数々。
 今まで見たことのない、少し拗ねたような顔。

 私は、自分でもわかるくらい目をパチパチと瞬かせながら、彼を凝視してしまった。

 柳くんがカッコいいなんて、一度だって思ったことはないし、そんな目で見たことすらない。

(……そっか。私、祥ちゃんしか見てなかったから)

 自分自身が祥ちゃん一筋で、彼のことで頭がいっぱいだったから。
 彼から見てどう映っているか、どう感じているかを、ちゃんと考えられていなかった。

 正人くんの言葉が、改めて胸に深く刺さる。

『あんなに彼女のこと好きなやつ、見たことないよ』

(祥ちゃんも私と同じように、やきもちを焼いて、拗ねてしまったりするんだ……)

 たまらなくなって、目の前の身体に、ぎゅっと抱きついた。

「っ、美絵……?」

「私は……祥ちゃんだけが大好き」

 胸元に顔を埋めたまま伝えると、祥ちゃんの腕が私の背中に回り、少し照れたような声が頭上からかけられた。

「……俺もだよ」

 私をあやすように、優しく背中を撫でてくれる大きな手。

 祥ちゃんの胸は、とてもあたたかい。
 安心感に包まれた瞬間、いずみや正人くんと五時間も喋り通した疲れが、急激に、波のように押し寄せてきた。

 彼の規則正しい心音を子守唄にしながら、穏やかな夢の中へと旅立った。
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