可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
「奥様、こちらを」

 床に膝をつき、メイドがそっとハンカチを差し出してくれた。

「ご、ごめんなさい。泣くなんて柄ではないのだけれど」

 抱き締めてくれているアリムに見られる前にと、涙を拭う。

 前世では、泣くのは自分の役目ではなかった。

 自分は常に心身ともに戦っていて、家族を明るく導く道標だ。

 でも、この世界の『アイリス』は、彼女が幼い頃に押し込め、忘れていた素直さを持ち合わせている。

 嬉しい、と喜んで涙が出るのを感じた。

 その感情で涙が出ることもあるのだと、アイリスはようやく思い出せた気がした。

(あなたが嬉しいと、私はもっと嬉しくなるわ)

 だからきっと、涙が止まらないのだろう。

 すると、控えめのノック音が聞こえた。

「一度顔を出すとは伝えてあったが……よかっただろうか?」

 目を向けると、ブロンズを連れたヴァンレックが開いた扉をノックしている。

 いつから見ていたのだろう。アイリスは、みるみるうちに耳の先まで真っ赤に染まった。
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