可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 文字の読み書きを習い始めた年齢の『アイリス』が、講師が言っていることもうまく理解できないまま動きをただ真似している――風景しか思い出せない。

(ふっ、なるほど。どうりでアイリスも積極的に踊りにいこうとしなかったわけね)

 身についていないのだから『楽しそう』よりも、恥をかくかもしれないという緊張や不安が勝ったのだろう。

 パーティー会場にいても壁際に立ち、ダンスのほうから目をそらしている光景の記憶があった。

(悔しいわっ、私がそばにいてあげられたらっ)

 母であるエティックローズ侯爵夫人は、アイリスをよっぽど社交界で男性と躍らせるつもりがなかったようだ。

 美しさでは妹に勝っていると分かっていたから?

 妹のほうも、姉に目立たれたくなくて――?

(……あいつら)

 アイリスは最初で最後に見た家族を思い返し、空を睨みつける。

(私だったら自分で講師でも雇って、一泡吹かせてやるところよ)

 がるるるとアイリスは番犬みたいに呻った。

 アリムが大きな目をぱちくりとし、ふふっと笑った。
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