可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 場に、重い空気が立ちこめるのを感じた。

 原因は――ほとんどは隣だろう。

 冷気を感じ取ったアイリスは、おそるおそる目を向ける。そこには空を見据えているヴァンレックがいた。

(さっきまで見ていた金色の目が、今はとても怖い感じがするわ)

 彼の真顔はよく見てきたが、なんだか怖い感じだ。

 ヴァンレックだけじゃない。レベッカ伯爵夫人のような反応を見せたメイドたちも、ブロンズも、納得がいかないと言わんばかりの顔に変化していく。

(ど、どうしよう)

 自分のせいで空気が重くなってしまった。

「あ、あの、旦那様」

 なんとかしなくちゃと思って声を出したら、彼がハッとしてピリついた雰囲気を消し、アイリスに視線を返してくる。

「なんでもない――アイリス」

 向き合ってきたかと思ったら、彼が急にアイリスの手を優しくすくい取った。

「えっ、な、なんでしょうかっ?」

 急に名前を呼ばれて動揺した。

「俺は兄上から、嫌というほどダンスを教え込まれたんだ」

 唐突な彼の告白に、アイリスは大きな目をぱちくりとする。
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