可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 そんなこと言われたら断れない。

(人嫌いなような恐ろしい大公様も、子育ての協力者にはこんなにも優しく――)

 初めての感覚に、全身の血がはやく流れていくのを感じていた。胸がときめいて、相手の瞳の中に自分の心がまっすぐ落ちていくような感覚――。

 だが、寸でのところで踏みとどまれた。

(ハッ、だ、だめよっ。彼は獣人族としてもう愛する人を決めている人なわけだし、可愛い子供だっているものっ)

 しっかりしないと。そう自分に言い聞かせる。

 ――アリムの母親がいる。

 彼が誕生したのは、美しいけど女性が近寄らないと言われているヴァンレックが、一人の女性と愛し合ったから。

 そう考えれば、彼がアイリスのダンスの相手ができるのも不思議ではない。

 けれど思うだけで胸はつきりと痛んだ。

「ア、アリムは大丈夫でしょうか」

 否定しても惹かれていく予感に、アイリスは慌て視線をそらす。

 すると、取られている手をくいっと優しく惹かれ、視線を引き戻された。ヴァンレックが高い位置にある頭を屈め、至近距離からこちらを覗き込んでいて、驚く。
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