可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 すると、アリムが嬉しそうに微笑んだ。

(――え?)

 場に似合わない、美しくて大人びた笑みだった。

「それなら、会いに行くといいよ」
「それができたらどんなにいいか、私は……だめなの」

 つらい気持ちが一気に襲い掛かってきた。他人で身の安全が保証されるのは、結婚したくてもできなかったヴァンレックが唯一愛したアリムの母親だ。アイリスは国王のように血をわけた家族でもなく、アリムのように実子でもない。

 アイリスは視線を落とした。

 今の自分は、前世で持っていた運動神経だって、あやしい。

「必要時外の暴走を恐れる人は多いけど、相当怒らせなければ、スイッチが入ったりしないんだよ。伴侶がいれば起こらない」

 言いながらアリムが立ち上がるのが見えた。

「僕が送り届けてあげるよ」

 ――ん?

 アイリスは、自分の耳が正しく機能しているのか、しばし考える時間が必要だった。

「夕食もきちんと一人でとるから。ああ、外の騎士たちにも伝えておくね」
「ちょ、ちょっと待って、アリム」

 何を言っているの、という言葉は続けられなかった。

 顔を上げて、アイリスはぽかんと口を開ける。

 そこに立ったアリムの両手に、黄金色の粒子のような輝きがたくさん集まっていた。

「さあ、行くといいよ」

 アリムがにっこりと笑いかけてくる。

「きゃっ」

 黄金色の粒子のような光が移動してまとわりついてきたかと思うと、アイリスは床から浮かび上がっていた。

「嘘っ、浮いてる!?」
「大丈夫だよ、アイリス。君の気持ちが向いていれば、もう――」

 どんどんアリムが遠くなっていく。

 彼の言葉は最後まで聞き取れなかった。天井と床の中央まで身体が浮かんだアイリスは、次の瞬間眩しい黄金色の光に包まれて、両腕でかばって目を強く閉じていた。

 ◇∞◇∞◇
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