可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
「それなのにどうして」

 ヴァンレックのそんな声のあと、ため息が続く。

(近くても、怖くなかったわ)

 離れていく狼の大きな顔の動きを眺めながら、姿は変わっても、ヴァンレックのままなのだとアイリスは実感した。不思議と表情も分かる気がする。

「旦那様は今、困っているみたいですね?」
「当然だろう。君が現れた瞬間、心底驚いた。その反動で理性が飛んでいたら――」
「私は危険に感じていませんけれど」
「なんだって?」

 人間臭く顔に前脚をあてていた狼が、頭をもたげて見つめ返してくる。

「君は警戒心がなさすぎるぞ。共に鍛錬した部下も、満月の時には危険だと感じ取れるのに君ときたら」
「今はそうなる感じはあるんですか? とても落ち着かれているように見えますよ。私のことを受け止めてくれましたし、尻尾を暖炉代わりに貸す余裕もあります」

 アイリスは、でっかい最高級品の毛皮カーペットに見える尻尾を、ふわふわと触って見せる。

 狼が、少し考える仕草をした。
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