可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
「今は……確かに心の乱れは感じていないな」
「では、大丈夫では?」
「いや普通だと大丈夫では……いや、そもそも、もしかして……」

 何やらそうつぶやいた狼が、唐突にじわじわと照れるような様子に変わっていく――気がする。

「旦那公様?」
「君は、楽観的過ぎる」

 声をかけたら、はぐらかすようにそんな即答が返ってきた。

「感情を荒立てなければ平気なんじゃないですかね? 入っちゃった以上、私も出られませんし。零時までこうしていましょうよ」

 狼がぴたりと大人しくなった。しばし関゛得る魔を置いたのち、彼は応じるように、両前脚を交差させて伏せのくつろぐ姿勢になる。

 鉄格子だけではなく、この階の出入り口にも鍵がかけられているのだろう。

 塔の最上階には、古びた扉が一つ見えた。ほんのりと灯された松明の光りで確認してみるが、こちらから鍵穴は見えない。

「一人に、したくなかったんです」

 アイリスは暖を取るように膝を引き寄せた拍子に、そう告げていた。
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