可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 遠くに見える騎士に合流すべく、庭を駆け抜ける。

「あっ、奥様いけませんっ」

 吹雪きに紛れた声を降り切って足を動かし続けた。

 突きさすような冷気ですぐに肺が痛くなる。

 体力のない身体が、続く運動に悲鳴を上げるが、脚をもつれさせながらアイリスは必死に前に進む。

(アリム、アリム)

 もし、こんな寒い中で遭難していたら?

 広大な敷地内だ。距離は短いが、森もある。こけてしまったら、あの小ささでは雪に埋もれてしまうだろう。

 雪の中では音が吸収される。

 そんな常識を思い出して――アイリスはゾッとした。

 もしも、もし……そんな嫌な想像ばかりが一気に膨らんだ。

 シーマスが、ハッと気付いて振り返ってきた。

「奥様はあまり建物から離れないでっ、我々で森まで――」

 その時だった。

「アイリス!」

 力強いその声は、どうしてかアイリスの耳によく聞こえた。

 ヴァンレックだ。そう分かった時には、目を向けるよりもはやく、彼女の手袋をする暇も惜しんだ手が掴まれて彼のほうに向き合わされていた。
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