可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 野獣の声に大きな一吠えに、アイリスはびっくりしてしまう。

 以前も人の言葉で会話していたので予想していなかった。

 すると――。

「この匂いって」

 とても不思議なことが起こった。かなりの音がアイリスの周囲には溢れているのに、まるで頭に直接入るみたいにそんなアリムの声が聞こえたのだ。

(これも獣人な族の不思議な力の一つだったりするのかしら?)

 アイリスは不思議に思う。

 ヴァンレックが「やれやれ」と吐息交じりにつぶやいた。

「時間も忘れて外にいたのか。大騒ぎだぞ、アイリスも心配している」
「えっ」

 狼は、とある方向へしなやかに身を滑らせる。

 大きな駆け足数歩分のところで、彼の足が止まった。金色の尻尾が降る雪を優雅な動きで弾く。

 木々の間の少し開けた場に、アリムが両手を握った姿で、ちょこんと立っていた。

 アリムはブルーの目をまん丸くしている。彼が無事である姿を見た瞬間、アイリスのオレンジ色の目が潤んだ。

「ア、アリムっ」

 彼のほうを見たまま下りようとする。ヴァンレックがギョッとして、慌てて伏せの姿勢を取った。
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