可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 チェスが始まった。そばから、ブロンズがカップに注ぐ紅茶のいい香りが漂う。

(彼は天才だわ。六歳なのに、きちんと理解して駒を動かしてる)

 チェスは、盤上の小さな戦争だ。

 説明からしても、アリムはそれぞれの駒の特性にも強い関心があるのは感じた。兵士から活躍し、最後にはクイーンを守り強敵をも討ち取って〝王〟になるポーン。その解説は熱がこもっていた。

(きっとこれも父親の影響ね)

 後継者としてすでに教育も始まり、ある程度詰まっているに違いない。

「アイリス結構いい手を使うね。むむぅ……これはパパに続いて強敵かもしれない……」
「そうかな?」

 学校で習った程度なんだけど、と思ったところでハタと気付いた。

 頭に、過去の『アイリス』の光景が流れ込んできた。

 驚いたことに彼女は、本を見ながら一人でチェス盤に向かい、駒を動かしていた。

 どうやら身体のほうが『アイリス』の学んだチェスの手を覚えているようだ。

(――ねぇ『アイリス』、あなたに今、チェスの相手がいるわ)

 目頭が熱くなった。こうして一つずつ、彼女がしたかったことをやっていこう。
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