可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 アイリスは片方の肩から出された、大きな三つ編みがされた自分の赤い髪を手でなぞる。

 こんなふうに髪型を弄られても気にならない。

 むしろ、これまでしたかった刺々しさのない恰好は呼吸がしやすかった。

『よく似合ってる。また、買いに行こう』

 朝食時のヴァンレックの笑顔を思い出して、思考は瞬時に止まった。

「……あんなに柔らかく微笑むなんて、反則じゃない?」

 人を愛することをすでに知っている男だからだろう。

 警戒心がなくなると、素敵な紳士すぎて困った。

(それとも私が恋した目で見ているせい?)

 前髪を軽くかき上げて「はぁ」とため息をもらす。

 もう、ただただ人のいい紳士にしか感じない。

 いや実際、ヴァンレックはすごくいい人なのだろう。社交界の噂は〝獣化〟への恐れも関係している。変身中に暴走してしまうのも事実だ。

「…………今はとてもコントロールできているように見えるけど?」

 それもアリムの母親が関わっているのだろうか。
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