可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 彼の手を借りて立ち上がると、不思議と頭も心もすっきりしていた。泣いた効果もあるのだろうか。

「それなら、急いで支度に取り掛からなくちゃね」
「出勤しているすべての人間を動員して準備を手伝わせます。ご家族での遠出は初めてでしょう。小旅行を楽しめるよう、尽力いたします」
「ありがとうブロンズ」
「うちの団長、いえ大公様と結婚して、今は幸せだという姿をぞんぶんに見せつけてきてください! 社交術に強い連中はいるかと手を挙げてもらって、そのリストを作ってきます!」

 一人の騎士がそう言って駆け出す。

 ブロンズがその背中に注意を投げた。

「時間がありません。リストができましたら、速やかに旦那様のところまでお願いします。それから雪道の装備品については――」
「騎士団側で準備させますからー!」

 と声を響かせながら騎士が出ていく。

「必要なドレスも集めませんと行けませんわね」
「そうね。挙式に着ていけそうなものは――」
「この前ご購入されたアメシスト色が美しいものはいかがでしょう? 王都の季節感にも合っているかと」
「いいわね。他のドレスも選びましょうか。ああ、それからアリムの服も選ばなくっちゃ。一緒に来てくれる?」
「お手伝いたします。それから、入り用品ですが――」


 ブロンズに仕込まれて短い期間だというのに、女主人として自然な振る舞いでアイリスがメイドたちと出ていく。
 それを見届けたブロンズが、帰還するまでの日程を調整すべく書斎机へと向かう。

 場は、二人の大人と一人の子供だけが残されて静かになった。

 ヴァンレックは、隣にいる自分よりずいぶん背が低いアリムを横目に見下ろす。

「――暴走化しないよう、お力をお借りしても?」
「――もちろんだよ、〝パパ〟」

 見上げたアリムが、にやりとして答えた。

 ◇∞◇∞◇
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