可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 ――美しいが、恐ろしい大公。

 最近、思い出すことも忘れているその噂について、ふっと何か重要なことを思い出しかけた。

 だが、挙式の際のヴァンレックの対応を思い返したアイリスは、抱き締められた記憶がよみがえって、ほんのり頬を染めた。

(まずいわ、他のことを考えましょ)

 そう思って視線をなんとなく移動した。

 すると、頬杖をついてにこにこ見ているヴァンレックの顔があって、驚いた。

「い、いつから見ていたんです?」
「食べ始めたところから」

 近くの円卓の者たちは、気になって仕方がない様子で、主役のほうではなくアイリスたちの円卓を注視している。

 アイリスだって、機嫌がいいヴァンレックが気になった。

「あの、以前も言いましたけど、食べているのをひたすら見られるのは恥ずかしいんですよ……」

 何が面白くて、彼は時々観察しているのだろう。

 そもそも、そんなふうににこにこしている人ではなかったはずだ。

「ヴァンレック様も、食べてください」

 気をそらすべく、そう告げた。

 先に視顔をそむけてしまったのはアイリスだった。彼は目を丸くし、それから笑う。

「それなら食事を楽しもうかな」
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