可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 人々が目を剥き、そして面白いくらい素早く逃げた。

 ――こん。

 丸い岩が床の絨毯の上で衝撃を受けたその時、ひび割れの内側が赤く光る。

(あ。ヴァンレック様は衝撃を与えないように〝いなした〟のね)

 彼がテーブルクロスをうまく使ったのだと察してアイリスが感心した直後、ぼんっと破裂音がして、丸い岩から赤い煙幕が上がる。

 それは人々が思わず口と鼻を覆うほどの刺激臭があった。

「うっ」

 アイリスも、どこか血生臭さも感じるそれから鼻を守った。

 飛び散った赤い煙は、一気に会場中へ広がった。騒ぎを聞いていくつかの出入り口が外から開く。

「わ、わしらを早く出してくれっ」
「酔った新婦が錯乱した!」
「ち、近くに魔獣がいようものなら、一気にこっちに――」
「ひっ」

 誰かがそう息を呑む声がやけに響いた。

 あれほどの大騒ぎが、一瞬にして止まったからだ。

「な、何……?」

 アイリスは、出入り口に駆け込んだのに、誰も出ようとしない光景に戸惑う。

 どんっどんっどんっ、と床が僅かに振動している気がした。
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