可愛いあの子の継母になるなら、獣人大公の嫌われ妻でも構いませんわ!〜どうやら私は侯爵家の悪女のようです〜
 廊下側にいた係の者たちが、向こうを見たかと思ったら表情を変えて、慌てて会場内に飛び込んでくる。

 不安がピークに達して動けなくなった会場内の人々に、係の者たちが叫ぶ。

「ま、魔獣です! みなさん奥へ逃げてください!」

 瞬間、悲鳴が炸裂し、人々が一斉に出入り口から離れ始める。

 ドレスに引っかかった円卓がひっくり返る。床へ投げだされた食器が次々に割れ、人々が踏みつけたぐしゃぐしゃになった食べ物や割れたガラス類が飛散する。

 ――だが、それよりも〝外の音がうるさい〟。

 アイリスは緊張した。

「こ、これって……」
「アイリス、腰は抜けてる?」
「だ、大丈夫です」

 声をかけられてハタと我に返った。声が聞こえたほうを見るとヴァンレックが手を差し出していて、アイリスは白い手袋がされた彼の手を取って、立ち上がる。

 人の姿が一気に引いた場にいたのは、アイリスたちだけだった。

 その時になって人々は思い出したらしい。

「た、助かったっ、ここにはヴァルトクス大公がいるぞ!」
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