恋は手のひらの上で
遠くへいったペンを拾ってくれた紗英が戻ってくるなり、私の肩を抱いて眉を寄せて「なにがあったの?」と声をひそめる。
目で問いかけるにも程がある。圧が強い。

彼女からしてみれば、私は高橋の方が印象があるのだろう。

「高橋じゃなかったら、誰なの?」

「そ、それは…」

言うべきか、それとも二人で会ってから全部話すか、迷いに迷って口をつぐむ。
その仕草を見られてしまい、紗英の力が強まった。

「待って、…もしかして」

「まだなにも言ってないよ」

「東央ヘルスケア?」

会社名だけ覚えているところが、紗英らしい。
何か言いだけな瞳をしていることはよく分かる。

急いで言い訳がましく、

「ちょっと飲みに行くだけ」

とつけ出すも、彼女は首を振った。

「飲みに行くだけ?違うでしょ。高橋にあんなに誘われても二人きりで行ったこと、ないよね?」

「それはそうだけど」

「芽依、その人のこと、好きなの?」

好きかどうかと聞かれると、はっきり言えるほどなのか、それは答えられない。
そんなに大きい気持ちなのか、自分にも分からない。

紗英からすれば、椎名さんの人物像は曖昧なのだ。
うちの会社に来た時に、ちらりと見た程度なのだから。
そんな彼女は、いつの間にか私の肩から手を外して、なにか考え込むように腕組をしていた。

「ねぇ、芽依。私、顔しか知らないけどさ。ちゃんとしてるんだよね?真面目な人なんだよね?」

「…仕事は、ちゃんとしてるよ」

「どーーーして芽依は恋愛になると、突然レベルが下がるんだろうね?」

「いや!その発言は解せない!」

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