恋は手のひらの上で
••┈┈┈┈••

玄関で、立ち止まる。

二足のパンプス。
いつものローヒールと、普段は履かないハイヒール。

─────今日は、どっちだ。

ほんの少しだけ迷って、ハイヒールを手に取る。

足を入れると、わずかに視界が高くなった。


「…よし」

鏡の中の自分が、いつもより少しだけ強そうに見えた。




その日の仕事はやけに長く感じた。
時計を見ては、やめる。 落ち着かない一日を過ごした。

定時と同時に立ち上がった自分に、苦笑いする。


バッグの重みが肩にずしんとくる。
資料とノートPCで、片手は持ち上げるだけで精一杯。

それでも、足取りはちゃんとしている。
小さく鳴るヒールの音が、いつもよりはっきり耳に残る。

慣れない高さに、ほんの少しだけ体が揺れる。

今さらローヒールにすればよかった、なんて思わない。
思わないけど。
心臓だけが、歩幅と合わない。



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