恋は手のひらの上で
そのままでいいですよ
スマホのアラームが、いつも通りの時間に鳴る。

目が覚め、アラームを止めてからいったん枕に顔を戻した。
頭痛がひどい。
頭を押さえた瞬間、まず思い出したのは昨夜のことだった。


「やっばぁぁぁ……」

胸の奥がどきりとする。

布団の端に追いやったスマホを、震える手で取る。
画面には、既読になった自分のメッセージ。

時刻は昨夜、二十三時半過ぎ。

ああ、読まれてる。
当たり前か。


椎名さんと飲んだこと。
ワインを何杯か飲んで、変なテンションになったこと。
ちゃんと目を見て、いろいろ話せた。話せたけど。

私、たぶん、かなり酔ってた。


送ったメッセージは、無事に着きましたと伝えたかっただけなのに、だいぶ支離滅裂だ。

文面を見返す勇気なんて湧かない。

「忘れたくないけど、思い出したくない……」

スマホを横に置いて、ベッドから跳ね起きる。
時計は七時過ぎ。今日は早く会社に向かわなきゃいけない。


顔を洗い、軽く化粧をして、書類とパソコンをバッグに詰め込む。

頭の中では、今日やるべき仕事がぐるぐる回っていた。

承認がおりた保湿ジェルの最終資料の確認。
製造部への指示。
マーケティングチームとの連絡。
そして、椎名さんとの業務連絡。


昨夜の浮かれた気分は胸の奥に押し込めて、無理やり仕事モードに切り替える。

それでも、心の片隅に椎名さんの笑顔がちらついた。


今日も、絶対に完璧にこなさなきゃ。
そう自分に言い聞かせて、家を出た。



< 116 / 228 >

この作品をシェア

pagetop