恋は手のひらの上で
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会議室のテーブルに、試作ボトルが三本並んでいる。
透明のジェルが入った小さな容器。

ここ数ヶ月、何度も見てきた試作だ。


「今日の議題は二つです。最終処方の調整と、パッケージ表記の確認」

高橋が試作ボトルを指で転がす。

「昨日のロット、粘度ちょっと高かった」

「私もそう思う。グリセリンが0.5%上がった影響だと思うんだよね。保湿は伸びたけど、塗布感が少し重い」


椎名さんがボトルを手に取り、少しだけ手の甲に出して伸ばした。
長い指が静かに動く。

「たしかにそうですね。保湿感はいいです。ただ、今の市場だと“重い”は弱点になります」

高橋が椅子に寄りかかる。

「最近は軽め処方ですもんね」

「去年から“ノンベタ処方”の検索がかなり増えています。特に二十代後半から三十代前半」

私は思わず顔を上げた。

「…そこ、今回のターゲットです」

彼は、私の反応を待っていたみたいに笑う。

「ですね。だから今の処方、方向性はかなりいい。ただ、初回使用の感触はもう少し軽い方が強いと思います」

「軽くしすぎると持続時間、落ちますよ」

高橋の言葉に、椎名さんはすぐうなずいた。

「なので、“軽いのに潤う”のバランスを作りたい」

私は資料に書き込みながら言う。

「じゃあグリセリンを0.3%落として、ヒアルロン酸を高分子と低分子のミックスにする。どうかな?」

「それなら保湿持続は維持できる」

「塗布感は軽くなる、ですよね?」


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