恋は手のひらの上で
三人の視線が一瞬重なる。

小さく笑ってしまう。こういう瞬間は気持ちがいい。


「…じゃあその方向で、試作一本作ります」

「技術側で処方組み直します」

「原料供給は東央で手配します」

椎名さんの視線がこちらに向く。

「西野さん。このジェル、かなりいいところまで来てます」

事実をそこに置く話し方。
でも以前より、少しだけ柔らかい。

「この処方なら、競合の主力ラインと十分戦える。むしろ今の市場だと、“軽いのに潤う高保湿ジェル”は空いているポジションです」

高橋が小さく笑った。

「もう売り方考えてるんですか?」

「商品が良ければ、戦略は組みやすいです」

そのあと、高橋がふと私を見る。

「西野。これ、当たるかもな」

素直な感想だと分かって、少しだけ笑った。

「当てたいね」

ただの願望のつもりだったのに、椎名さんがするりと拾う。

「当たりますよ。西野さんが作った商品ですし」


一瞬、会議室が静かになった。

その空気の中で、高橋が椅子を引いて立ち上がる。

「…じゃあ試作急ぎます」


でも席を立つ前、ほんの一瞬だけ。
高橋の視線が、私と椎名さんの間を通った。



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