恋は手のひらの上で
扉が開く。
高橋は何事もなかったみたいに外へ出る。

私も少し遅れて歩き出す。
胸の鼓動がまだ速い。


エントランスで、高橋が立ち止まった。

「……ごめん。俺、まだ仕事残ってた」

どう見ても嘘だ。
でも、それ以上何も言えない。

「西野、先に帰ってて」

その言い方だけが、いつもより少し優しかった。



外に出ると、夜風が頬に当たる。


深く息を吸う。
近すぎた距離。

温度の変わった目。
つかまれた腕。

思い出しかけて、やめる。


それより先に浮かんだのは、高橋じゃなくて椎名さんの顔だった。

胸がまた少しだけ揺れた。




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