恋は手のひらの上で
打ち合わせはさらに続いた。
表示表記、価格帯、販促の方向。

椎名さんは、要点だけを的確に押さえていく。


「西野」

高橋が資料を指で叩く。

「これ、ほぼ西野のジェルで勝負する形になるな」

「えっ…」

言葉を失う私に、椎名さんが続ける。

「役員説明でも、処方の話は中心になります。当然ですが、責任は重くなると思います」

背筋が伸びた。
その一言だけで、ずしっと重さがのしかかる。

けれど椎名さんは、まっすぐこちらを見て言った。

「でも、西野さんなら大丈夫でしょう」

励ますでもなく、持ち上げるでもなく。
ただ当たり前みたいに。

胸の奥がじんわり温かくなる。

「…はい。頑張ります」


そのとき、高橋のスマホが震えた。
彼は画面を見て少し顔をしかめる。

「すみません、工場からだ。ちょっと出てきます。西野、先に進めててくれ」

ドアが閉まり、会議室が少しだけ静かになった。
私は資料を整えながら尋ねる。

「……さっきの話、本当に前倒しでいけるんですか?」

「はい」

椎名さんは迷いなく答えた。

「西野さんの処方なら、勝てます」

さらっと言う。
当然みたいに。

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