恋は手のひらの上で
••┈┈┈┈••

気がつくと、応接室のソファに座らされていた。

高橋が支えてくれている。
でも、まだ意識は半分も戻らない。

頭がぐるぐるして、光の輪郭もぼやけている。


「帰った方がいいんじゃないのか?」

高橋が低く、でも迷うように言った。

「だめだよ…。やらなきゃいけないこと、たくさん残ってる」

「役員会議は来週半ばだし。今日はもう帰って休んだ方が絶対にいいって」

「だめ」

「西野、頼むから」

押し問答が続く中、応接室のドアがノックされた。


「すみません、確認に漏れがあって戻ってきたんですが……ここにいるとお聞きして」

入ってきたのは、さっき帰ったはずの椎名さんだった。
思わぬ人物の登場に、動揺を隠せない。

そしてそれは、椎名さんも同じらしかった。

「大丈夫ですか? 体調、やはり良くなかったのでは」

低く落ち着いた声。
それなのに今だけは、わずかに揺れが混ざっていた。

何か言わなきゃと思うのに、言葉が出ない。
めまいと睡魔が同時に襲ってくる。

「ちょっと、どうやら限界迎えたらしくて。椎名さん、その確認事項、俺でも対応できます?」

高橋はちらりと私を見てから、椎名さんと一緒に応接室を出ていった。


静かになった部屋の中で、ソファに身を沈める。

風邪なのか、ただの限界なのか、自分でも分からなかった。


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