恋は手のひらの上で
しばらくして、高橋と、もう一人顔なじみのある紗英が応接室に入ってきた。

「芽依!大丈夫?」

その問いかけにも、うまく反応できない。

「ねぇ、病院に連れていった方がよくない?」

「そりゃあ俺だってそう思ってるよ」

「芽依、今日は帰りな。荷物はここにまとめといた。あとはロッカーに入れておくから」

紗英が頬に触れる。

「無理しすぎ。頑張りすぎなんだよ」

「…そんなこと、ない」

辛うじて出た言葉は、どうしても強がりになった。
高橋がしゃがみ込み、私の目を見る。


「西野。……めちゃくちゃ不本意だけど。外で椎名さんが待っててくれてる。送ってくれるって言ってるから。ていうか、俺が頼んだ」

「─────えっ」

私の声と同時に、紗英も驚いた顔をする。

「あんた、そんなに心の広いやつだったの?」

「そんなわけないだろ。不本意だって言ってんだよ」

そのやり取りを聞きながら、申し訳なさが押し寄せる。

「俺が来週の役員会議のための資料はできるところまで作る。週明けチェック頼む。とにかく、今日はちゃんと休んでくれないか」

真剣な声だった。
高橋だけじゃなく、紗英も心底心配してくれている。


…なんて情けない。

私は言葉なく、うなずいた。



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