恋は手のひらの上で
昨夜の記憶が少し戻る。
車、エントランスの前、立てなくなった足。

「部屋番号を聞いたんですが、返事がなかったので」

淡々と説明されているのに、恥ずかしさが一気に押し寄せる。

「それでやむを得ず、ここに」

椎名さんは視線を少しだけ逸らした。
その先は私が座っているベッドに向けられている。

つまり、そういうことだ。

「……私、ここで寝てたんですか?」

「はい」

「椎名さんは…」

思わずソファを見る。
椎名さんは微笑んで、肩をすくめた。

「気にしないでください」

一瞬、言葉を失う。

「…すみません」

謝っても謝っても、足りるものではないのは分かっていた。
それでも、申し訳なさすぎて。

「体調が悪かったので、仕方ないですよ」

椎名さんの声は、もう寝起きとは違う、いつも通りに近い声だった。

でも、よく見ると、彼の髪が少しだけはねている。
昨日つけていた淡いブルーのネクタイは、ソファの背にかけられていた。

なぜか胸の奥がじんわりする。
ちゃんと寝てないんだ。
私のせいで。

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