恋は手のひらの上で
「身長差、考えてもらえませんか?」

こういう時にどうしても、つい“そうじゃない”セリフを言ってしまう。
でも、彼は全然気にしている様子はない。
まだ笑っている。

「女性の服なんて、ここには置いてないですもん」

その言葉に、なぜかちょっとほっとする。


「食欲ありますか?」

「うーん、…あまり」

彼は私の答えを予測していたらしく、冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り出した。

冷蔵庫のドアが開いた時、飲料水や卵のパックなどが見えた。
思っていたより、ずっと普通の一人暮らしの中身だった。


「経口補水液とかの方がいいんでしょうけど。今はないので、とりあえずお水でも。あとで買ってきます」

それはとんでもなく申し訳ない!

「お水がいいです!お水飲みたいです!」

即答すると、また彼は笑った。

「こういう時は甘えないと」

そう言われても、簡単に甘えられる性格じゃないことは、自分が一番よく分かっている。
それでも、差し出されたペットボトルを両手で受け取った。

「ありがとうございます」

キャップをひねって、ゆっくり口をつける。

冷たい水が喉を通っていく。
思っていたより身体が水分を欲しがっていたのか、二口、三口と続けて飲んでしまった。

「それくらい飲めるなら大丈夫、かな」

椎名さんが少し安心したように微笑んだ。

「病院、十一時に予約してあります」

椎名さんは腕時計を見て、「まだ時間はあります」と続けた。

「それまで横になっててください」

「手配が!早いですよ!仕事みたいなんだから!」

先回りして全部準備しておくあたりが、彼の性格なのかもしれないが、ツッコまずにはいられなかった。
なんてことない顔をして、彼はハイハイ、と流す。

「そっちで寝ててください」


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