恋は手のひらの上で
…なんか、私、子供扱いされてないか?
言葉の代わりに、もう一口だけ水を飲んだ。


ペットボトルをテーブルに戻し、よろよろと歩いて立ち止まる。

ベッドか、ソファか。
私がさっき起きて整っていないベッド。
椎名さんが座ったまま寝ていたソファ。


迷って、とりあえずベッドを整えていたら後ろから呆れたような声が聞こえた。

「西野さん。なんで寝ないの?」

仕事の時とは違う言い方に、思わず振り向いた。

彼の手にはマグカップ。コーヒーではない、なにか温かい飲み物が入っているらしい。湯気がたっている。
メガネ越しに、椎名さんの目が細められているのが見えた。

そんな目で見なくても。

「ベッドが、だいぶ荒れてたんで」

「だから、寝ていいんですって」

強制的に背中を押されたので、私は必死に抵抗した。

「待って!だめです!せめてソファにします!」

「どうして?」

「……なんとなく?」

「熱があるのに?」

沈黙が落ちる。

でも、なんと言われようとベッドに寝転がるなんてとてもじゃないができない。
私は意地でも寝るもんか!とソファに腰かけた。

足を折りたたんでソファを確保したのを見たからか、椎名さんがハハッと笑った。

「まあまあ西野さんて頑固ですよね」

「そんなの言われたことないです」

「みんな言わないだけなんじゃないかなぁ」

彼はマグカップを私のペットボトルの横に置くと、ベッドからブランケットを抜き取って私の身体の上にかけてくれた。

「言っておきますけど、そのソファ寝づらいですよ」

ブランケットのやさしさと、寝づらいソファで寝かせてしまった罪悪感、どちらとも言えない感情が湧き上がってくる。
でも謝るのは違う、と思い直した。

「ありがとうございます」

ブランケットをかけてくれた“やさしさ”を受け取る。

「目を閉じるんですよ。いいですね?」

「は、はい」

念押しされ、私はなんとかうなずいた。



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