恋は手のひらの上で
大人しくソファにもたれ、ブランケットをぎゅっと握った。
その様子を確認した椎名さんは、やっと安心したみたいに息をつく。

腕時計を外してテーブルの上に置く代わりに、さっきのマグカップを取ってノートパソコンが置いてある窓際のデスクへ座った。


レースカーテンから、朝の光が輝く。
電気をつけなくても部屋が明るくて、年中薄暗い私のマンションの部屋とは全然違うな、と思う。


黒革ベルトの腕時計。 見覚えのあるそれをぼんやり眺めていると、彼は足を組んでノートパソコンを立ち上げる。


部屋の中に、キーボードの静かな音だけが響く。

その音を聞いているうちに、だんだんとまぶたが重くなってきた。

眠るつもりなんてなかったのに。
気づけば、意識がふわりと沈みかけていた。
やっぱり、体調が良くないのかも─────。


ぼんやりした頭で、私は声を出していた。

「……椎名さん」


次の瞬間、パソコンが閉じる音がした。

はっとして顔を上げる。
気づけば、すぐ目の前に椎名さんがいた。

「どうしました?」

近い。
近い近い近い。

─────え?
さっきまで、あそこにいたよね?


思わず目を瞬く。
椎名さんが少し不思議そうな顔をする。

「呼びましたよね?」


呼んだ?呼んだの?
ちょっと待って。
私、なに言った?

記憶がない。

もろに顔が熱くなる。

「…呼んだかも、しれない」

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