恋は手のひらの上で
違う意味でさっきより頭がぼんやりしている。
それでも気になって仕方なくて、思わず尋ねてしまった。

「─────瞬間移動しました?」

言ってから気づく。
なんだ、この質問。


椎名さんは一瞬だけ目を丸くして、それから笑った。

「してないです」

少し身をかがめて、私の顔を覗き込む。
メガネのレンズ越しに、目が合う。

「ずっとここにいましたよ」

─────嘘だ。
絶対さっきまで机にいた。絶対。

でも言い返す元気がない。


というか、近い。顔が近い。
距離がおかしい。
なに、この距離。

いつもの私なら、恥ずかしくて死ねる。


彼の手が動き、私の身体にかかっているブランケットを肩まで引き上げてくれた。

「いつでも呼んでください」


その声を聞きながら、意識がゆっくり沈んでいく。

たぶん、また眠る。
眠る前に、ぼんやり思った。


─────さっき本当に瞬間移動してなかった?



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