恋は手のひらの上で
••┈┈┈┈••

病院を予約してくれていた時間になり、私は彼の車に乗っていた。
歩いて十分くらいの場所らしかったけど、今の私の状態ではどう考えても歩くのは無理なので、椎名さんが車を出してくれた。

昨日から永遠に頼りっぱなしだった。

そして、さらに申し訳ないことがある。


「…あの、椎名さん」

「はい」

「上着まで借りてしまってすみません…」

「全然。でも、ちょっと」

スウェットだけじゃあまりにも“病人”だし、なにしろ寒いので、黒のパーカーを借りたのだ。
だがしかし、スウェット以上に大きい。上着代わりなのだから仕方ないのだが。

椎名さんのなにか言いたげな目が、私の袖に向いていることが分かる。

「分かってます!言われなくても」

「何回折ったの?」

「…さあ」

答えられないほど、何度も折り返して、スウェットの袖と相まって、なかなか袖先の見た目がごつい。

関係ないけど、たぶん彼は私服はカジュアルだ。


「予約してるとはいえ、待ち時間もあると思いますし。寝てていいですよ」

彼は軽く言うけれど、ここでは寝顔が丸見えじゃないか。
もう何度も見られているだろうけど。

でも、言い返す言葉もなく曖昧にうなずく。

「寝てます…」

「目、開いてますけど」

「寝てます!」

椎名さんがまた笑った。


仕事から離れているから?
それとも、少しずつ距離が縮んでる?
ちょっとでも、私に心を許してくれてる?

そう思えるほど、小さなことでも笑ってくれる。


結局、いまいち寝られないままあっという間に病院に着いた。



病院の待合室は、土曜日の午前らしく少し混んでいた。

椅子に座っていると、体がじんわり重い。
熱のせいなのか、頭の奥がぼんやりしている。

「西野さん、大丈夫?」

隣から声がする。
視線だけ隣へ向けると、椎名さんが心配げに見ている。

家の中と、外ではまるきり空気が違う。
体調不良の状態で外に出るということのハードルの高さといったら。

─────隣に誰かがいてくれることの心強さも、このときはっきりと知った。


「…大丈夫です」

そう答えるけど、声が思ったより弱い。

「顔が真っ青だな」

さっきまで赤かったのに、と彼は眉を寄せるのだった。
本気で心配してくれているのは、ぼーっとする頭でも感じる。


< 147 / 228 >

この作品をシェア

pagetop