恋は手のひらの上で
─────だから、どうしてそうなるの。

私が完全にフリーズしていると、後ろから変な声が聞こえた。

「……え?あ。は、はい。昨日からです」

ほら、椎名さんもめちゃくちゃ動揺してる!
恥ずかしくて後ろを振り向けない。


先生はうんうんとうなずく。

「かなりの高熱だからね。採血と、感染症の検査もしておこうか」

話がどんどん進んでいく。

…ちょっと待って。
先生、待って。

「あ、あの、すみませんが俺…」

後ろからまた慌てたような椎名さんの声が聞こえたものの、看護師さんの明るい声が遮った。

「はーい。じゃあ検査していくので、いったん旦那さんは待合室でお待ちくださいねー」

「い、いや、だから」

「待合室へどうぞ〜」

さすがに後ろを振り返る。


仕事では絶対に見たことのない、激しく動揺した彼の困った顔が見えた。
たぶん、私も同じ顔。

目が合ったと思ったら、バタン!とドアを閉められた。



ひと通りの検査を終えて待合室へ戻ると、椎名さんが腕を組んで隅っこに座っていた。
私が出てきたことに気づくと立ち上がってそばに来てくれた。

「結果待ちです」

待合室の椅子に腰かけてそう言うと、彼は小さくうなずいた。

さっきの出来事については、なにも言わない。

たまりかねて、私から言う。

「旦那さんじゃないです」

「…ですね」

彼はメガネごと片手で顔を覆った。

「すみません。ちょっとこういうのには、慣れてません」

「私だって同じですよ!」

「そりゃそうか…」

なんとも言えない空気が、二人を包んだ。



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