恋は手のひらの上で
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病院を出たあと、車の中はしばらく静かだった。

薬を飲んだせいか、体が少しだけ軽い。
でも、完全に楽になったわけじゃなくて、頭の奥がまだぼんやりしている。


窓の外を流れる街並みを眺めながら、私はぼんやり考えていた。

今日一日。

椎名さんの家で目が覚めて、熱を測って、着替えを借りて。
病院にまで連れてきてもらった。


…普通じゃない。
普通じゃないのに。
不思議なくらい、落ち着いていた。

隣でハンドルを握っている人が、椎名さんだからかもしれない。


信号で車が止まる。

横顔が視界に入る。
眼鏡の奥の目は前を見たままで、表情はいつも通り落ち着いている。

でも、その横顔を見ていると、ふと思う。

この人、昨日ほとんど寝てないはずだ。
私のせいで。


胸の奥が、じんわりと温かくなる。
それを言葉にする勇気はなくて、私はまた視線を外した。


「やっぱり、過労でしたね」

ふと椎名さんがつぶやいた。
予測していたみたいな言い方だった。

「今日と明日で治してみせます」

「昨日倒れたばかりなのに?」

「月曜までには、絶対」

気合いがあればどうにかなります、とつけ加えたら、隣でため息が聞こえた。
思わず彼を見つめる。

まだ信号が赤だからか、椎名さんは私を見ていた。


「それで無理してまた倒れたらどうするんですか?」

「治します!」

「そうじゃなくて。仕事はね、どうとでもなるんですよ」

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