恋は手のひらの上で
「なんにせよ、とりあえず元気になったならよかった」

高橋はもう、仕事の顔になっていた。

「木曜の役員会議のための資料、金曜のうちに作ってある。チェックしてくれないか。たぶん俺だけじゃ漏れが多い」

「うん、分かった。高橋、いろいろ…ありがとう」

「いいよ、別に」

彼なりの優しさなのは、よく分かる。
私もちゃんとしなくてはいけない。


早速パソコンを立ち上げて、画面が表示される。
高橋がまだ私の後ろにいて、一緒にパソコン画面を覗き込んでいた。

「ここ、この共有フォルダに入れてあるから、確認して。それと…」

「うん?」

私が続きを待っていると、ためらいがちな声が落ちてきた。

「…今日か明日、二人で会える?」

「“二人で”…」

「病み上がりだろうし、酒なしでメシとか」


彼の目に、何かしらの迷いは見て取れた。
私もこのままじゃよくないことは分かっている。

一瞬、目を合わせたまま沈黙があったけれど、私も決意した。そのまま急いでうなずく。

「うん、よかったら明日。私も…話したいことある」

「─────よろしく」


高橋はそれ以上はなにも聞いてこなかった。
私も、なにも言わなかった。


今日は、なぜか落ち着いていた。

画面に視線を戻す。


共有フォルダに入っている資料を開くと、スライドがずらりと並んだ。
木曜の役員会議用の最終資料だ。


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