恋は手のひらの上で
すぐに気になるところを見つけて、高橋に聞く。

「ここ、グリセリンの数値直した?」

「うん。処方チームから最終データもらって更新してある」

「微粒子付着抑制ポリマーのところ、説明一行足した方がいいかも」

「どこ?」

身を乗り出して目を凝らす彼に、私は画面を指で示す。

「ここ。“都市部の大気汚染粒子の付着抑制”って書いた方が分かりやすい」

「あー、確かに」

高橋はすぐに私の元を離れて自分のデスクに戻り、共有フォルダの資料を開き直すと、キーボードを叩いた。
カタカタと入力音が続いた。


画面の中で、資料が少しずつ整っていく。

処方データ、試験結果、パッケージの仮デザイン。
金曜まで必死で詰めた内容が、こうして形になって並んでいる。


「西野」

「ん?」

「このUV-02、通ると思う?」

「通すよ」

これはもう、即答だった。
自分でも少し驚くくらい、迷いがなかった。

「ここまでやったんだから」

私はそう言って、次のスライドを開いた。

「そうだな」

彼も隣で笑っていた。


明日、高橋と話す。
きっと、ちゃんと終わらせる。

そして、もうひとつ。
胸の奥で、静かに名前を呼ぶ。

椎名さん。

あの人のことを、 私はもう、分かってしまったから。




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