恋は手のひらの上で
••┈┈┈┈••

その日の夜。

いつものバルの扉を開けた瞬間、馴染みの顔が見えた。
同期の紗英と麻耶。

お待ちかねといった様子で手を振っていた。


「来た来た!」

「生きてる〜」

麻耶がグラスを持ったまま、ジャケットを脱いでいる私を眺める。

「芽依、三十九度だったんでしょ?」

まだ席にも着いていないのに、もう始まる女子トーク。

ドリンクメニュー表を差し出しながら、紗英が頬杖をついた。

「なに飲む?」

「今日はソフトドリンクにしとく」

「でろんでろんに酔っ払わせて、全部吐かせたかったのに!」

「すみません、ジンジャーエールお願いします」

紗英の言葉を遮って注文した私は、やっと椅子に座ってひと息ついたところだ。


「あの日は大丈夫だったの?フラフラだったじゃん」

すぐに切り出してきた紗英の指す“あの日”は、私が倒れた日だ。

彼女は椎名さんが私を送ってくれたことも知っている。たぶんそれは、麻耶にも伝わっているはず。
そしてなにより、近くで彼を見た人でもある。

私が答えるより先に、麻耶が食いつく。

「ねぇ、想像より高身長って聞いたよ?何センチ?」

「…いや、分かんない」

とりあえずスウェットのサイズ感からすると、だいぶ身長差はある。でも、借りたことなんて言えない。


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