恋は手のひらの上で
「この処方、あなたが中心になって組んだんですか?」

「は、はい」

少しだけ声が固くなる。

「処方チームと検討を重ねて、最終設計を担当しました」

役員はふっと息を吐いた。

「若いのに、なかなか攻めた設計をしますね」

その口元には、さっきまでの厳しさはもうなかった。



その言葉に、会議室全体の空気が少しだけ緩む。


別の役員が口を開いた。

「都市生活者向けの処方としては、面白いな」

「市場性もありそうだし…」


役員三人が小さくうなずくのが、私からよく見えた。
さっきまでの重たい空気が、少しずつ変わっていく。


最初に質問してきた役員が、資料を閉じた。

「分かりました」

その声は、もう前を向いていた。

「この方向で進めましょう。発売に向けて具体化を進めてください」

もちろん、と続けざまにはっきりと言った。

「発売スケジュールは予定通り前倒しで」



私はすぐさま思わず隣を見た。

椎名さんは、静かに資料を閉じていた。
私の視線に気づくと、にこっと笑ってくれた。

まるで最初から分かっていたみたいに。

その顔を見ていると、さっきまで胸を締めつけていた緊張がゆっくりほどけていく。

─────この人がいたから、今日、ここまで来られたのかもしれない。




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