恋は手のひらの上で
••┈┈┈┈••

役員の人達がぞろぞろと出ていき、会議室の扉がぴたりと閉まった。

さっきまでの空気が嘘みたいに静かだ。


さっきまでの緊張は嘘みたいにもうない。
やっと体から抜けて、気がついたら椅子に座っていた。


私はようやく息を吐いた。

「すみませんでした。途中、言葉が詰まって…」

思ったより声が小さい。

椎名さんが不思議そうに首をかしげる。

「どうして謝るんですか?」

「でも、あのままだったら…」

「西野さん」

名前を呼ばれて、顔を上げる。
椎名さんも椅子に座って、同じ視点でまっすぐ私を見る。

「さっきの説明、十分通ってましたよ」

その言い方があまりにも断言で、胸が少し熱くなる。

「むしろ、よくあそこまで言い返しましたね」

彼の口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。

「正直、見ていて少し楽しかったです」

「えっ?」

思わず聞き返すと、椎名さんは小さく肩をすくめた。

「西野さん、普段は穏やかですけど、仕事になるとちゃんと戦うから」

その言葉に、なぜか顔が熱くなる。

「“戦う”なんて、縁遠い言葉だと思ってました」

「そうかな。俺はずっと思ってましたけど」

彼は視線を外し、これまでのことを思い出すみたいに窓の外を見やった。


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