恋は手のひらの上で
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高橋に「シリーズ化するぞ」と言われてから、数日が経った。


忙しさは相変わらずだった。

発売後の対応、営業から上がってくる報告、社内の資料作成。
やることはむしろ増えている。

それでも、仕事の空気は悪くない。


朝、席につくと営業の人が声をかけてくる。

「西野さん、ジェルまた動いてるよ」

「ほんとですか?」

「昨日ドラッグストア追加発注来たからね」

「すごい…」

そんな会話をしながらパソコンを立ち上げた。

画面に売上の数字が並ぶ。
本当に、右肩上がりだ。


高橋の言葉が、ふっと頭をよぎる。

─────『これ、たぶんシリーズ化するぞ』

「…いやいや」

私は小さくつぶやいた。


まだ決まったわけじゃない。
期待しすぎると、だいたい空振りする。

そういうこと、仕事では何度もある。


その時、デスクの上に置いていたスマホが震えた。

画面を見ると、椎名さんの名前。


思わず背筋が伸びる。
私は慌てて通話ボタンを押した。

「もしもし」

『あ、西野さん』

落ち着いた声。
それだけで、胸の奥が少しだけ熱くなる。

「お疲れ様です」

『お疲れ様です』

電話越しに、向こうも仕事中なのが分かる。
周りのざわめきが微かに聞こえる。

『今、大丈夫ですか?』

「はい。大丈夫です」

意味もなく椅子に座り直した。
椎名さんが続ける。

『ひとつ、共有があります』

いかにも仕事の言い方。いや、仕事のことで連絡をくれたのだから当たり前なのだが。

私は息を飲んで彼の言葉の続きを待った。

『今回のジェルですが』

「…はい」

少しの間があった。
ほんのわずかな沈黙。

椎名さんの声色はいつもと変わらなかった。


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