恋は手のひらの上で
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さっき電話でお店を出た時よりも、夜風の冷たさはなくなっていた。
本当は冷たくなんてなかったのか、待ち遠しくて心が熱いだけなのか、それは分からない。


道路の向こうに、見慣れた車が停まっている。

運転席のドアが開いた。
椎名さんが降りてきて、私に手を振る。

いつものスーツ姿。知っているはずなのに。
今日にいたっては、そのシルエットだけでもドキドキしてしまった。


私は少しだけ歩く速度を落とす。

…なんだろう。
急に、緊張してきた。

車のそばまで行くと、椎名さんが軽く会釈する。

「こんばんは」

彼はいつも、こうしてちゃんと挨拶する。
それももう、知っている。

「こんばんは」

あれだけ前のめりに「会いたいです!」と言ってしまったさっきの電話の大胆な自分は、もうここにはいない。

椎名さんは少しだけ私の顔を見る。

「飲んでます?」

「ワイン、ちょっとだけ」

「ほんとに?何杯?」

「二杯だから、そんなに酔ってません」

椎名さんは助手席のドアを開けてくれた。

「疑わしいな」

「信じてください」

笑っている彼に、私も笑い返す。

「まあ、西野さんは酔ってたらすぐ分かるから」

それだけ言って、彼は運転席に戻る。
ドアが閉まり、エンジンがかかった。

車は静かに夜の街へ滑り出した。


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