恋は手のひらの上で
久しぶりに隣にいる。

それだけで、胸の奥が少しだけ落ち着かなくなる。


車は静かに夜の街を走っていた。
窓の外の光が、ゆっくり流れていく。


私はシートベルトを触りながら、少しだけ椎名さんの方を見る。

久しぶりだ。
こうして、二人でいるの。

「今日は誰と飲んでたんですか?」

椎名さんが不意に聞いてきたので、ちょっと肩をすくめた。

「紗英と麻耶と。あの時、乱入してきた同期の二人です」

「あぁ…」

ハンドルを握り直した彼の仕草を見て、おそらく思い出したんだろうなと分かる。
“あの時”っていうだけで、伝わってしまう。

「仲良いんですね」

「はい。なんだかんだ、楽しいですよ」

ツッコミは厳しいけれど。

「でも」

私は窓の外を見る。

「ちょっと愚痴ってました」

「愚痴?なんの?」

椎名さんがちらっとこちらを見る。
どう伝えようか考えたものの、回りくどいのは嫌だった。

「会えてないって」

ありのまま言ってよかったのか、正解はたぶんない。
だけど、隠したって意味がないと思った。

「“すみません”とか、“ごめん”とか、謝らないでくださいね」

前置きした上で、青く照らされている彼の横顔を見つめる。
信号にちっとも引っかからない青ばかりの信号を、椎名さんはまっすぐ見ていた。


< 210 / 228 >

この作品をシェア

pagetop