恋は手のひらの上で
「さっきね、考えてたんです」

「…うん」

「“忙しい”って、会えない時に使っていいのか」

これは、説教じゃなく、理詰めでもなく、ただの感情論。

「でも、椎名さんの顔を見たら、全部吹き飛んじゃいました」

信号が赤に変わる。
初めて、彼と視線が合った。

「今日会えたので、どうでもいいです」


少しの間が空いたと思ったら、ふっと椎名さんが笑った。
なにか変なことでも言ってしまったのかと一瞬、不安になる。

「いや、なんていうか」

と、彼は深いため息をついた。

「すさまじいな、久しぶりに会うと。西野さんのパンチ力」

「パンチ?してないです」

「怖いよ、自覚ないの」

どういうことですか?と問い詰めたら、信号が青になってしまった。

彼は全然答えてくれなかった。




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