恋は手のひらの上で
「自覚しました?」

ふと、椎名さんがどこか含んだように笑っている。

「でもね、事実なんですよ」

「今日は俺、ボコられてる気分です」

「だから!どこが?」

言い返した瞬間、キスをされた。
驚く間もない、短いキス。

手からぽろっとマグカップが落ちそうになり、椎名さんがすかさずキャッチする。
そのままそれは、テーブルの上に置かれた。


「…ワインのせいです」

苦し紛れにそう言うと、椎名さんは小さく笑った。

「そうですか」

少しだけ沈黙。
視線が絡み合う。

そのまま、私の手が軽く取られる。

指先を、確かめるみたいに触れられた。
…ああ、やっぱり、安心する。この手だ。

そう思った瞬間。
椎名さんが少しだけ身を寄せた。


これはたぶん、まずいやつだ。
察して、反射的に椎名さんのシャツをぎゅっと掴んだ。
私のこれは、癖みたいになりつつある。

思わず顔を上げると、椎名さんがこちらを見ている。

私の手はまだシャツを掴んだまま。
彼は私の手をほどこうとはしなかった。

私の手を握ったまま、少しだけ笑った。
頭の奥が少しぼんやりする。


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