恋は手のひらの上で
「安心した」

思わぬ彼の言葉にどきりとする。

「え?」

「逃げないんだなって」

胸の奥が、また少しだけうるさくなる。

「逃げませんよ」

私はまだ近い距離のまま、椎名さんを見る。

「…椎名さん」

「はい」

「─────待たせるの、好きじゃないって言ってましたよね?」

椎名さんが少しだけ目を細めた。

「言った」

「じゃあ─────」

言い終わる前に、大きな手が背中に回される。

その時、椎名さんが一瞬だけ離れて、首元に手をやった。

ネクタイをゆるめる。
結び目をほどいて、襟から静かに引き抜く。

手の動きは、音もなく静かで、そして目を引いた。

床にするりと落ちるネクタイ。

次の瞬間、いつもより丁寧な感じではない、強い力で抱きすくめられて唇が重なる。

さっきより深いキス。
私はまたシャツをぎゅっと掴む。

息が少し乱れる。
それでも、離れられない。
ただ、もう身体を支えてもらわないと、たぶん私はこのまま倒れそうだった。


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