恋は手のひらの上で
私は一瞬指が止まる。
数字は整理済みでも、椎名さんの質問は冷静に事実だけを突きつけるようで、心臓が少し緊張する。

彼は優しい。
けれど、仕事では決して手を抜かない。

「初期広告費を抑えつつ、粗利率は20%以上を確保しています。市場平均CVRを3.0%とすると、ROIは計画通りです」

うなずく椎名さんの視線が、一瞬だけ私に向けられる。

『なるほど。では、リスクが発生した場合の対応策はなにかお考えですか?』

「CVRが下振れした場合は、広告費を一部調整して回収します。レビュー誘導の施策も即時見直し可能です」

椎名さんの視線が微かに柔らかくなるのが見えた。
胸の奥が少し弾むのを感じた。

『西野さん、数字も施策も妥当です。あとは現場の進行状況次第ですね』


私は小さくうなずいて見せ、机の下でガッツポーズした。

冷静に数字を示しつつも、心のどこかでなにかを間違えているんじゃないか、なにかが足りなかったらどうしよう、と不安を抱えていることは確かだ。
それが全部とは言わないが、少し消えた。



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