恋は手のひらの上で
「そういえばさ」

と、不意に紗英が思い出したようにイスにもたれていた体を起こした。

「高橋も、次の会議から参加するんでしょ?」

「そうなの。…なんで知ってるの?」

怪訝そうな顔をしてしまったのだろう、無意識に。
彼女は笑っていた。

「“西野の案件に俺もサポートで入ることになった!”って意気揚々と言いに来たよ、私のところに」

思わず盛大なため息が漏れてしまった。
容易に想像できてしまう、単純な彼のそういう行動。

「愛されてるね、芽依」

「そんなんじゃない」

すぐに、紗英を遮ってしまった。

「なんか、ちょっと複雑だよ」

声を落としつつ言うと、紗英は首をかしげる。

「どういう意味?」

「高橋は、いつも見てくれてる。フォローもしてくれる。励ましてくれる。それはありがたいの。本当に。でも、うまく応えられてない」

いま一番の、悩みの種かもしれない。

少し目を伏せていると、紗英は軽く笑って、フォークを置いた。

「芽依、仕事も恋愛もクソ真面目だもんねー。せめて高橋とご飯くらい一緒に行ってあげたら?」

「え、そんなん、デートみたいで絶対やだ」

思わず声が少し大きくなってしまった。
紗英は笑いながら肩をすくめる。

「真面目すぎるのもよくないよ?ほどほどに遊ぶのが一番」

「ちょっ…!だから!軽い気持ちでそういうのはだめなんだってば」

つい強く返してしまう自分に、少しだけ照れくさい気持ちが混ざる。
テーブルの向こうで紗英が「そういうとこよ〜」と面白そうに笑っていた。


小さく肩の力が抜けて、思わず私はほんの少し笑みを浮かべる。
まだ悩みは完全には消えていないけれど、それでも、こうやって誰かに話せるだけで、少しだけ気持ちが軽くなるのを感じた。




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