恋は手のひらの上で
エレベーターへ乗り込み、ちらりと隣を見やった。

相変わらず、ものすごく整っている。
線がきれいで、バランスがいい。

「今日は珍しく、メガネなんですね」

私がそう言うと、彼は思い出したみたいにメガネに手をかけた。
長い指先がマッチするように、美しい曲線を描く。

「あぁ、普段はコンタクトなんですけど、たまにかけてますよ。目の調子が悪い時とか。基本は家用なんですけど」

「初めて見ました」

「そんな特別なものじゃないです」

椎名さんはどれほど自分のことが分かっていないのか。
なんてことなさそうに笑うその横顔を、複雑な気持ちで見てしまった。



••┈┈┈┈••

うちの会社の会議室は、椎名さんの会社のそれに比べるとだいぶ狭く、そして壁際の棚にはカタログやサンプルが並んでいる。

あの、ガラス張りのおしゃれで都会的なデザインとは正反対にあるような、ごちゃごちゃした背景。

そんな会議室に、彼を招き入れる。

室内にはすでに朝倉課長と高橋が待機していた。


「椎名さん、こちらまで来ていただきありがとうございます」

課長がすぐに立ち上がり、椎名さんに声をかける。
二人が挨拶を交わし終えたのを見計らい、高橋が一歩前へ出て名刺を椎名さんに渡した。

「初めまして。高橋翔太と申します。本日は技術面でのサポートとして一緒に参加させていただきますので、よろしくお願いします」

高橋も、こういう時はちゃんとしている。
ネクタイの角度は、当たり前のように曲がっているけれど。

「東央ヘルスケアの椎名榛人と申します。よろしくお願いします」

椎名さんも名刺を取り出して、高橋へ。
前にも見たあの無駄のない動作が、目の前で起きてどきっとした。

飾りっけのない高橋の手とは、やはり大きくなにかが違う。
並ぶとなおさら、違いがはっきりしていた。



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