恋は手のひらの上で
「まず、価値の伝え方を見直します。チャネル設計、クリエイティブ、訴求順。価格を疑うのは最後です」

私の言葉のあと、高橋がすぐに補足する。

「技術面は担保できます。香料の安定性も確認済みです。三千円であれば品質を落とさず継続可能です」

彼の声も落ち着いていて、迷いがない。

その横顔を見て、少しだけ驚く。
ここまで頼りになるとはちょっと意外だった。

守られているのは、私だ。

だけど、私のその視線の先にあるものを、高橋は気づいているだろうか。
椎名さんと私の間に流れる、言葉にしない了解を。


朝倉課長が腕を組む。
「西野さん」と改めて呼ばれた。

「三千円は攻めだと思ってる。でも、西野さんがその理由を言い切れるなら、私は支持する」

胸の奥が、じんわり熱くなった。
なんて心強い味方だろう。
ともにここまで準備して、私を支えてくれた課長の言葉が染みる。

「責任は部署で持つ。覚悟は、西野さん。きみが持ちなさい」

はい、と返す声が、まっすぐ出る。

椎名さんが小さくうなずき、そして口元に笑みを浮かべた。

「その価格なら、東央側としても本気で拡販します」

低い声だけど、芯があって、信頼のおける温度。
まるで─────共闘宣言。


テーブルの上で、四人の視線が交わる。
対立ではなく、完全なる対等。


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