恋は手のひらの上で
一瞬、言葉に詰まる。
そんな質問、リモートでは出なかった。

数字でも原価でもない。
─────未来。

胸の奥が、静かに鳴る。


「……シリーズ展開を」

気づけば答えていた。

「三千円でも手が届く“本物”を、ラインで作りたいです。スキンケアも、ベースも。同じ思想で揃えたいです」

自分でも驚くほど、迷いがなかった。


会議室が静まる。

朝倉課長は腕を組み、何かを測るようにこちらを見る。
高橋は、初めて聞く話に目を見開いている。

身内にも話していなかった構想を、今ここで初めて口にした。これが正解かどうかは、正直わからない。


椎名さんは、ははっ、と柔らかく笑った。

「面白いですね」

低く、確信のある声で。

「それなら、長い付き合いになりそうですね」


その言葉に、胸の奥がじわりと熱を持つ。

三千円は、ただの価格じゃない。
これは入口だ、未来への。


そして私は今、同じ未来を見ている人と、同じテーブルに座っている。


会議はそこで締まった。


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